夜、実家のマンションに帰った。
マンションの脇に、いつも利用している駐輪場がある。そこに原付を止めて、わたしはエントランスの方に歩き出した。
途中、マンションに面した公園が目に入る。中高生くらいの少年が五、六人いた。乗ってきたものと思われる数台の自転車に囲まれて、何をするでもなく一つのベンチにたむろしている。
この公園はよく人が集まる。昼は母親と子どもの、夕方は犬とその飼い主の、深夜から朝にかけては浮浪者のたまり場となる。夜は若者の時間というわけだ。
わたしが少年たちを見たとき、彼らもわたしを見ていた。バイクの音を聞いて、こちらに注目したのだろう。わたしは気にせず、エレベーターに向かった。
家には誰もいなかった。
留守ということは知っていた。今から近所の知人と会う約束があって、実家にはヘルメットを置きに上がっただけだった。
ヘルメットを置くと、すぐに家を出た。夜の十時を過ぎていた。
エレベーターを降り、エントランスを抜ける。
原付を止めた駐輪場を迂回しようとして、ふと足を止めた。
厚着の若い男が三人、駐輪場の屋下で身を寄せている。
こちらからは背中しか見えないが、服装で公園にいた少年たちだとわかった。
少年たちの一人はシートにまたがり、他の二人はミラーやハンドルに手を伸ばしていた。
私の原付の、である。
……さて、どうしよう。
幼少のころより武道を習い、なまじ腕に覚えがあるため、学生時代は悪友とさんざんやんちゃをし、この界隈を鳴らしてからというもの、プロからのスカウトが引きも切らずに来るような男だったらいざ知らず。
度胸も腕力もない女の身で、少年たちを追い払うことができるだろうか。逆ギレされたらおしまいだ。
父が近くにいれば、すぐにでも来てもらうのだが、あいにく今夜は飲みに出かけている。店の場所はわからない。
母も忘年会で不在。東京にいる弟や、会社にいる夫は当てにできない。
警察を呼ぶか?
わたしは、昔ある事件で110番通報したときのことを思い出した。
『事件ですかァ!? 事故ですかァ!?』
電話口でまくしたてる男性係員の声が頭のなかで再生される。
調書を取るから交番まで来いと言われ、貴重な休日がつぶれたときの苦い記憶がよみがえった。
結局、まだ実害がないのに110番することはないと考え直す。
だが、少年たちがバイクを盗む気でいたらどうする。
鍵を壊したり、配線を直結しようとしたとき、止めに入れるか。
やはり一人では心細い。しかし、家族の応援は期待できない。
ならば地元警察署、いや最寄の交番に連絡するのはどうだろう。
そうだ。お巡りさんにたのんで、少年たちに声をかけてもらえばいい。それなら事が大きくならずに済む。
それで――どうやって連絡する。
交番の電話番号など知らない。電話番号がわからなければ、お巡りさんも呼べない。
直接交番へ出向くにしても、そのあいだに盗まれたり、壊されたりする恐れがある。それでは意味がない。
やはり自分で声をかけるしかないのか――。
というようなことを考えていたら、少年たちは三メートル後ろから凝視しているわたしに気づき、そそくさと去っていった。
わたしも原付も事なきを得たが、あまりにもチキンな自分が情けなくなった。